「年金は繰り下げたほうが増える」という話を聞いたことがある方は多いと思います。実際、受給開始を遅らせると月額が増える仕組みがあります。ただし「誰にとっても得」というわけではなく、健康状態・加給年金の有無・在職状況などによって判断が変わります。この記事では仕組みと損益分岐点を整理し、最後にツールで「自分の場合」を確かめられるようにします。
繰り下げ受給の仕組み:月0.7%ずつ増える
老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は65歳が標準の受給開始年齢ですが、66歳以降に受け取り開始を遅らせる(繰り下げる)ことで、月額が増額されます。増額率は1ヶ月あたり0.7%です(日本年金機構、変更なし)。
繰り下げ年数と増額率の早見表
| 受給開始年齢 | 繰り下げ月数 | 増額率 | 月15万円の場合 |
|---|---|---|---|
| 65歳(標準) | 0ヶ月 | 増減なし | 15.0万円 |
| 66歳(1年繰り下げ) | 12ヶ月 | +8.4% | 約16.3万円 |
| 68歳(3年繰り下げ) | 36ヶ月 | +25.2% | 約18.8万円 |
| 70歳(5年繰り下げ) | 60ヶ月 | +42.0% | 約21.3万円 |
| 75歳(10年繰り下げ) | 120ヶ月 | +84.0% | 約27.6万円 |
出典:日本年金機構「老齢年金の繰り下げ受給」/最大75歳への拡張は2022年4月施行(昭和27年4月2日以降生まれの方が対象)
老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることも可能です。どちらか一方だけを繰り下げる選択もできます。
「損益分岐点」とは何か
繰り下げ受給の「損益分岐点」とは、65歳から受け取り続けた場合の累計と、繰り下げた場合の累計が逆転する年齢のことです。
計算式を簡単に整理すると、繰り下げた月数をNとすると、待機中に受け取れなかった総額を月額増加分で割り戻すと「1÷0.007 ≈ 142.9ヶ月(約11年11ヶ月)」になります。これは繰り下げ年数に関わらず常に一定という数学的な特性があります。
受給開始年齢別の損益分岐年齢(目安)
| 受給開始年齢 | 損益分岐年齢の目安 | 受給開始からの年数 |
|---|---|---|
| 66歳(1年繰り下げ) | 約77歳11ヶ月 | 約11年11ヶ月後 |
| 70歳(5年繰り下げ) | 約81歳11ヶ月 | 約11年11ヶ月後 |
| 75歳(10年繰り下げ) | 約86歳11ヶ月 | 約11年11ヶ月後 |
上記は税・社会保険料・加給年金を含まない目安の値です。実際の損益分岐点はこれより遅くなる場合があります。
なお厚生労働省は「どの時点で受け取り始めても、65歳時点の平均余命まで生きた場合の受給総額が年金財政上中立となるよう設計されている」と説明しています。特定の年齢を「正解」として示すことは公式では行っていません。
繰り下げが「得になりやすいケース」と「注意が必要なケース」
繰り下げが得になりやすいケース
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 健康状態が良く、長生きが見込まれる | 損益分岐点を超えて受け取る期間が長くなるほど有利 |
| 65歳以降も働いて収入がある | 待機中の生活費を給与で賄えるため、年金なしでも生活できる |
| 配偶者への加給年金がない | 繰り下げ中の給付停止による損失が生じない |
| 老後の生活費を月額増加分でカバーしたい | 月々の手取りが増えると生活の安定につながる |
注意が必要なケース
| ケース | 注意点 |
|---|---|
| 配偶者に加給年金が加算される予定 | 繰り下げ待機中は加給年金が停止され、増額対象にもならない。待機中の損失が大きくなる場合がある |
| 65歳以降は収入がない | 待機中の生活費を貯蓄から取り崩す必要があり、総資産が早く減る可能性がある |
| 健康状態に不安がある | 損益分岐点を迎える前に亡くなった場合、繰り下げ分の恩恵を受けられない |
| 65歳以降も一定以上の収入がある(在職) | 在職老齢年金で停止された相当額は繰り下げ増額の対象外(2026年4月から基準額が月65万円に緩和) |
出典:日本年金機構「老齢年金の繰り下げ受給」、厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」
みなし増額特例(2023年4月施行)
70歳以降に繰り下げ申出をせず遡及して一括請求する場合でも、「請求日の5年前に繰り下げ申出があったとみなして」増額した年金の5年分を一括で受け取れる特例があります(昭和27年4月2日以降生まれ・受給権取得が平成29年4月1日以降の方が対象)。ただし医療・介護保険料や税金への影響があるため、個別の確認が必要です。
自分の損益分岐点をツールで確かめる
判断材料を整理する:「得か損か」より「自分の状況か」
繰り下げ受給の得失は、シンプルな「月額 × 年数」の計算だけでは答えが出ません。判断に必要な主な要素を整理します。
繰り下げを検討するときの確認リスト
- 65歳以降の収入見込みはあるか(待機中の生活費をどう賄うか)
- 加給年金・振替加算の受給資格はあるか(配偶者扶養状況の確認)
- 在職老齢年金が適用される収入水準か(月65万円超えが目安:2026年4月〜)
- 健康状態・平均余命と損益分岐年齢を比較する
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることも検討する
あわせて使ってみる
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品・サービスへの投資を推奨するものではありません。年金制度は法改正により変更される場合があります。正確な情報は日本年金機構または年金事務所でご確認ください。最終的な判断はご自身でお願いします。


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