※本記事は2026年8月時点の情報です。試算は令和8年度の保険料率(東京都・協会けんぽ)にもとづく概算で、実際の金額は加入する健康保険や扶養の状況により異なります。
まず結論:3行でわかる要点
- 社会保険料は等級という階段でかかる。境目をまたぐと保険料が一段上がる
- 月給を1,000円上げたら手取りが月1,749円減るケースが実際にある
- 住民税は1年遅れて上がる。昇給の実感が薄いのはこれも理由
昇給したはずなのに、明細を見ても手取りがほとんど変わっていない。むしろ減っている気さえする。
気のせいではありません。昇給額によっては、本当に手取りが減ります。なぜそんなことが起きるのかを、数字で確かめていきます。
月給1,000円アップで、手取りが1,749円減る
実際に計算してみます。東京都の協会けんぽに加入している40歳未満の会社員のケースです。
| 昇給前 | 昇給後 | |
|---|---|---|
| 月給 | 289,000円 | 290,000円 |
| 標準報酬月額 | 28万円(21等級) | 30万円(22等級) |
| 社会保険料 | 41,177円 | 44,020円 (+2,843円) |
| 手取りの差 | 月 −1,749円(年 −20,988円) | |
月給を1,000円上げたのに、社会保険料が2,843円増えたため、差し引きで手取りが減りました。年間では約2.1万円のマイナスです。
なぜ起きるのか:保険料は「階段」でかかる
社会保険料は、月給そのものにかけるのではありません。標準報酬月額という区分にあてはめてから計算します。
| 等級 | 標準報酬月額 | 月給がこの範囲なら |
|---|---|---|
| 21等級 | 28万円 | 27万円以上 29万円未満 |
| 22等級 | 30万円 | 29万円以上 31万円未満 |
| 23等級 | 32万円 | 31万円以上 33万円未満 |
月給289,000円は21等級なので、保険料は28万円に対してかかります。ところが290,000円になると22等級に変わり、30万円を基準に計算されます。
月給は1,000円しか増えていないのに、保険料の計算のもとになる金額は2万円も跳ね上がる。これが手取りが減る正体です。
等級がひとつ上がるとき、約2,800円以上の昇給がないと手取りは増えません。
(東京都・40歳未満の場合。40歳以上は介護保険料が加わるためもう少し必要)
等級はいつ決まるのか
標準報酬月額は毎月変わるわけではありません。決まるタイミングは主に2つです。
- 定時決定:毎年4〜6月の給与の平均で決まり、その年の9月から翌年8月まで適用される
- 随時改定:固定的な賃金が変わり、3か月平均で2等級以上動いたとき、4か月目から改定される
春の昇給が保険料に反映されるのは、多くの場合その年の9月からです。「昇給からしばらくして手取りが減った」と感じるのは、このタイムラグのためです。
もうひとつの原因:住民税は1年遅れる
昇給の実感が薄いもうひとつの理由が住民税です。
住民税は前年の所得をもとに計算され、その年の6月から翌年5月にかけて徴収されます。つまり昇給した年の住民税は、まだ昇給前の所得で計算された安い金額です。
本当の負担増がやってくるのは翌年の6月から。昇給の喜びが薄れたころに、月々の天引きが増えることになります。
「税率が上がって損をする」は誤解
よくある勘違いに触れておきます。「昇給して税率の階段を越えると、全体に高い税率がかかって損をする」というものですが、これは誤りです。
所得税は超過累進課税なので、階段を越えた分だけに高い税率がかかります。年収が上がって手取りが減ることは、税金では起こりません。手取りが減る原因は、あくまで社会保険料の等級です。
では、どう受け止めればいいか
この現象を知ったうえで、押さえておきたいことが3つあります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 損とは限らない | 厚生年金の保険料が増えるということは、将来受け取る年金も増えるということです。傷病手当金や出産手当金も標準報酬月額をもとに計算されるため、いざというときの給付は手厚くなります |
| 一時的なもの | 目減りするのは等級の境目をまたいだ直後だけです。次の昇給で階段の内側に入れば、増えた分がそのまま手取りに乗ります |
| 4〜6月の給与で決まる | この時期に残業が集中すると等級が上がりやすくなります。ただし残業を意図的に調整するのは現実的ではありませんし、給付が減る面もあります。そういうしくみだと知っておく程度でよいと思います |
手取りが減ったという事実だけを見ると損に感じますが、払った保険料は将来の給付として戻ってくる部分があります。まったくの持ち出しというわけではありません。
モリガマがちょうどいいものを持ってきてくれました。

昇給後の年収を入れると、社会保険料と税金を引いた手取りが出ます。昇給前後で比べてみてください。
まとめ
- 社会保険料は等級(標準報酬月額)という階段でかかる
- 境目をまたぐと、月給1,000円アップでも手取りが月1,749円減ることがある
- 等級がひとつ上がるときは、約2,800円以上の昇給がないと手取りは増えない
- 等級は4〜6月の給与で決まり、9月から反映される
- 住民税は翌年6月から上がる。負担増は1年遅れてくる
- ただし厚生年金の保険料が増えれば将来の年金も増える。丸ごと損というわけではない
よくある質問(FAQ)
Q. 昇給したのに手取りが減ることは本当にありますか?
A. あります。社会保険料は標準報酬月額という等級にあてはめて計算されるため、等級の境目をまたぐと保険料が段階的に増えます。月給289,000円から290,000円に上がった場合、標準報酬月額は28万円から30万円に変わり、社会保険料が2,843円増えます。昇給額1,000円を上回るため、手取りは月1,749円減る計算になります。
Q. 手取りが増えるには、いくら昇給が必要ですか?
A. 等級がひとつ上がる場合、東京都・40歳未満で約2,800円以上の昇給が必要です。標準報酬月額が2万円上がると社会保険料が約2,843円増えるためです。40歳以上は介護保険料(0.81%)が加わるため、必要な昇給額はもう少し大きくなります。等級が変わらない範囲の昇給であれば、増えた分はほぼそのまま手取りになります。
Q. 標準報酬月額はいつ決まりますか?
A. 主に毎年4月から6月の給与の平均で決まり、その年の9月から翌年8月まで適用されます(定時決定)。このほか、固定的な賃金が変わって3か月の平均が2等級以上動いた場合には、4か月目から改定されます(随時改定)。春の昇給が保険料に反映されるのは多くの場合9月からで、数か月のタイムラグがあります。
Q. 昇給すると税率が上がって損をしますか?
A. 損はしません。所得税は超過累進課税なので、税率の階段を越えた分にだけ高い税率がかかります。年収全体に高い税率がかかるわけではないため、税金が原因で手取りが減ることはありません。手取りが減る原因は社会保険料の等級です。
Q. 社会保険料が増えるのは損ですか?
A. 一概に損とはいえません。厚生年金の保険料が増えれば、それに応じて将来受け取る年金も増えます。また傷病手当金や出産手当金も標準報酬月額をもとに計算されるため、病気やケガで働けなくなったときの給付も手厚くなります。手元のお金は減りますが、将来の給付として戻ってくる部分があります。
参考・出典
本記事は情報提供を目的とした一般的な解説です。試算は東京都・協会けんぽ加入・40歳未満を前提とした概算で、健康保険料率は都道府県や健康保険組合により異なります。等級区分および改定のルールの詳細は、日本年金機構および加入する健康保険にご確認ください。


